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京都地方裁判所 昭和38年(ワ)719号 判決

主文

一、原告と被告美浪有限会社との間において、別紙第一目録記載各土地は原告の所有であることを確認する。

二、被告美浪有限会社は原告に対し、別紙第一目録記載各土地について、取得者を原告とする所有権移転登記手続をせよ。

三、被告浅田克己は原告に対し別紙第一目録記載各土地について京都地方法務局昭和三三年一二月二七日受付第四七、四一九号をもつて、同年同月一七日の売買を原因とし、取得者を同被告としてなされた所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

四、被告中西英子は原告に対し、別紙第一目録記載各土地所有権の持分三分の一について取得者を被告とする所有権移転登記手続をせよ。

五、被告桑名輝子は原告に対し別紙第一目録記載各土地所有権の持分三分の二について、取得者を原告とする所有権移転登記手続をせよ。

六、被告美浪有限会社の反訴請求を棄却する。

七、本訴、反訴を通じて、すべての訴訟費用中、原告について生じた分はこれを五分し、その一を被告浅田克己の負担とし、その一の三分の一を被告中西英子の負担とし、その一の三分の二を被告桑名輝子の負担とし、その三を被告美浪有限会社の負担とし、各被告について生じた分は、それぞれ当該被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

原告、

(昭和三八年(ワ)第七一九号)

一、被告美浪有限会社は原告に対し別紙第一目録記載各土地が原告の所有であることを確認する。

二、訴訟費用は被告美浪有限会社の負担とする。

(昭和三九年(ワ)第四七七号)

一、被告美浪有限会社は原告に対し、

(1)  (第一次的に)別紙第一目録記載各土地について京都地方法務局昭和三四年六月一〇日受付第一八、二六一号をもつて同年同月九日の売買を原因とし、取得者を同被告としてなされた所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

(2)  (予備的に)別紙第一目録記載各土地について取得者を原告とする所有権移転登記手続をせよ。

二、被告浅田克己は原告に対し、別紙第一目録記載各土地について京都地方法務局昭和三三年一二月二七日受付第四七、四一九号をもつて、同年同月一七日の売買を原因とし、取得者を同被告としてなされた所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

三、被告中西英子は原告に対し、別紙第一目録記載各土地所有権の持分三分の一について、取得者を原告とする所有権移転登記手続をせよ。

四、被告桑名輝子は原告に対し別紙第一目録記載各土地所有権の持分三分の二について取得者を原告とする所有権移転登記手続をせよ。

五、訴訟費用は被告ら四名の負担とする。

(昭和三九年(ワ)第四九五号)

一、被告美浪有限会社の反訴請求を棄却する。

二、反訴の訴訟費用は被告美浪有限会社の負担とする

被告美浪有限会社

(昭和三八年(ワ)第七一九号)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

(昭和三九年(ワ)第四七七号)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

(昭和三九年(ワ)第四九五号)

一、原告は被告美浪有限会社に対し別紙第二目録記載建物を収去して、別紙第一目録記載各土地の明渡をせよ。

二、原告は被告美浪有限会社に対し昭和三四年六月一〇日以降前項により各土地明渡ずみに至るまで一月金五、〇〇〇円の割合による金員の支払をせよ。

三、反訴の訴訟費用は原告の負担とする。

四、右第二項について仮執行の宣言。

第二、当事者の主張

(昭和三八年(ワ)第七一九号および昭和三九年(ワ)第四七七号事件について、原告の請求原因)

一、別紙第二目録記載建物の敷地が別紙第一目録記載各土地である。

二、別紙第一目録記載各土地および別紙第二目録記載建物は、ともに昭和二三年七月一日財産税物納により大蔵省がその各所有権を取得したものであるところ、右建物を占有していた訴外木村留三郎が大蔵省より昭和二五年一月二七日別紙第二目録記載建物を代金五二、四七〇円で、昭和二五年八月二九日別紙第一目録記載各土地を代金計金一八、四三八円で各売払を受けてその所有権を取得した。然し右訴外人は貧困にして、右代金の支払ができなかつたため、同訴外人の妹にして、同訴外人と同居して同訴外人の生活費を負担していた訴外南野幾太郎が訴外木村留三郎を代理して昭和二七年一月二六日原告に対し右各土地および建物を代金合計金三五〇、〇〇〇円で売渡した。原告は同年二月六日右訴外南野幾太郎より右各土地建物の引渡並びに同土地建物について、原告のための所有権移転登記手続に使用するために、当時の訴外木村留三郎の実印の交付を受け、自来右建物に居住し、右各土地を占有している。

三、然るところ、訴外木村留三郎は、別紙第一目録記載各土地および同第二目録記載建物について、大蔵省よりその所有権移転登記を受けないままで、昭和二七年三月二二日死亡し、その相続人である被告中西英子がその妻、被告桑名輝子がその子として右訴外人の遺産を相続し、その相続分は、被告中西英子が三分の一、被告桑名輝子が三分の二であるが、右被告両名は、右訴外人が原告に対し右各土地建物を売渡したことを熟知していたので、大蔵省の京都財務部に折衝協力して、先ず別紙第二目録記載建物について、中間登記を省略して原告が直接昭和二七年一月二八日に大蔵省より売払を受けたものとし、右を原因として、京都地方法務局昭和三〇年一一月二二日受付第三一、〇八一号をもつて原告を取得者とする所有権移転登記が経由された。然しながら右被告両名は別紙第一目録記載各土地については、大蔵省より昭和二七年四月四日京都地方法務局受付第六、九四一号をもつて、同年一月二八日の売払を原因として亡木村留三郎を取得者とする所有権移転登記を得て、昭和三二年九月上旬頃に、原告に対し、同年同月中旬頃までに、右各土地について所有権移転登記手続をなすことを約したのに、右両土地について京都地方法務局昭和三三年一二月二七日受付第四七、四一八号をもつて昭和二七年三月二二日の相続を原因とし、取得者をその持分三分の一については被告中西英子、持分三分の二については被告桑名輝子なる所有権移転登記をしたまま、原告に対して、右両土地について所有権移転登記手続をしない。

四、別紙第一目録記載各土地には、京都地方法務局昭和三三年一二月二七日受付第四七、四一九号をもつて同年同月一七日の売買を原因とし、取得者を被告浅田克己とする所有権移転登記および同法務局昭和三四年六月一〇日受付第一八、二六一号をもつて同年同月九日の売買を原因とし、取得者を被告美浪有限会社とする所有権移転登記が存在する。

五、(被告美浪有限会社に対する関係において予備的に)

原告が右のとおり訴外木村留三郎より別紙第一目録記載各土地の所有権を承継取得したことが被告美浪有限会社に対抗できないとしても、原告は前記のとおり昭和二七年一月二六日訴外木村留三郎の代理人南野幾太郎より右各土地を買受け、同年二月六日これが引渡を受けて以来、右各土地を所有の意思をもつて平穏かつ公然に占有を継続し、その占有の始め善意にして、原告がその所有権を取得したものと確信するについて過失がなかつたから、原告は昭和三七年二月六日の満了と同時に右各土地の所有権を時効により取得した。そこで原告は、その登記名義人である被告美浪有限会社に対し、登記なくしてその所有権を対抗できるものということができる。

六、然るに被告美浪有限会社は別紙第一目録記載各土地に対して所有権を主張し、原告の所有権を争う。

七、よつて原告は、被告美浪有限会社に対し、別紙第一目録記載各土地が原告の所有であることの確認を求めると、ともに右各土地の所有権にもとづいて、第一次的に訴外木村留三郎よりの承継取得を原因として右各土地について京都地方法務局昭和三四年六月一〇日受付第一八、二六一号をもつてなされた取得者を同被告とする所有権移転登記の抹消登記手続を求め、予備的に、時効取得を原因として右各土地について取得者を原告とする所有権移転登記手続を求め、被告浅田克己に対しても、所有権に基づいて右各土地についてなされた取得者を同被告とする前記所有権移転登記の抹消登記手続を求め、売買に基づく債権的請求権として被告中西英子に対して、右各土地所有権の三分の一の持分について、被告桑名輝子に対して同三分の二の持分についてそれぞれ取得者を原告とする所有権移転登記手続を求めるため本訴請求におよぶ。

(右両事件について被告美浪有限会社の抗弁に対する原告の主張)

一、被告美浪有限会社主張のとおり、被告中西英子および被告桑名輝子が被告浅田克己に対し別紙第一目録記載各土地を売渡したこと、および右各土地について原告が登記を有していないことは認めるが、その余の事実は否認する。

二、被告浅田克己は昭和三三年頃繊維ブローカーとして多額の債務を負担し、その弁済に迫られ、果てはその債権者よりの詐欺罪等の刑事訴追を免れるために、別紙第一目録記載各土地が既に原告に売渡されてその所有権は原告に移転していることを知悉していたのに、原告に対する移転登記が未了であることを奇貨として、右両土地を被告中西英子および被告桑名輝子より低廉な価格で取得し、これを被告浅田克己の債権者えの担保物たらしめようとして、原告を害する目的で、被告中西英子および被告桑名輝子に積極的に働きかけて、同被告らを説得して、同被告らより右両土地を買受け、これら土地について昭和三三年一二月二七日前記のとおり、被告中西英子および被告桑名輝子に対し相続を原因とする所有権移転登記が経由された後、京都地方法務局同日受付第四七、四一九号をもつて同年同月一七日の売買を原因とし、取得者を被告浅田克己とする所有権移転登記を受け、同法務局昭和三四年一月六日受付第九〇号をもつて昭和三三年一二月二八日の売買予約を原因とし、権利者を訴外渡勝栄とする所有権移転請求権保全仮登記を経由したものである。

被告中西英子および被告桑名輝子と被告浅田克己との間の右各土地に対する売買は、右被告らにおいて、右のとおりこれら両土地が原告の所有に属することを知りながら、原告を害する目的でなされたものであるから公序良俗に反し民法第九〇条により無効にして、従つて被告浅田克己は、右売買によつては右両土地の所有権を取得せず、右売買を原因としてなされた右両土地についての被告浅田克己を取得者とする前記所有権移転登記も無効である。

三、被告美浪有限会社は被告浅田克己に対し債権を有していたので、別紙第一目録記載各土地について被告浅田克己が適法な所有権を有していないことを知りながら、被告浅田克己より、同被告に対する債権の代物弁済として、右各土地の所有権を譲受け、右各土地は昭和三四年六月九日買受けたとして、同年同月一〇日京都地方法務局受付第一八、二六一号をもつて取得者を被告美浪有限会社とする所有権移転登記を受けたものであるから、同被告が右各土地について登記を有していても、適法な所有権を取得するに由なく、従つて原告の登記の欠缺を主張することができる正当の利益を有する第三者ではないから、原告は同被告に対しては登記なくして、右両土地の所有権を主張することができるものである。

(昭和三九年(ワ)第四九五号反訴事件の請求原因に対する答弁)

一、別紙第一目録記載各土地について被告美浪有限会社主張の各登記がなされていることおよび原告が右各土地上に別紙第二目録記載建物を所有して右各土地を占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

二、被告美浪有限会社は、原告が前記のとおり昭和三八年(ワ)第七一九号事件および昭和三九年(ワ)第四七七号事件で主張する如き理由により別紙第一目録記載各土地の所有権を取得せず、その所有権は原告にあるから被告美浪有限会社の反訴請求は失当である。

(昭和三九年(ワ)第四九五号反訴事件について、原告の抗弁)

一、仮りに被告美浪有限会社が別紙第一目録記載各土地について所有権を取得したとしても、右各土地および、その土地上の別紙第二目録記載建物の所有者であつた訴外木村留三郎が右建物を原告に譲渡した際、該建物を取毀すことを前提とする等別段の特約は存在せず、右建物を、建物としての用法に従い使用させる目的で譲渡したものである。よつて右建物のために用益権が設定されたものと認めるべきである。右用益権の性質は、民法第三八八条および地上権に関する法律第一条の法意に鑑み建物の所有を目的とする地上権と解すべきである。

そしてその地上権者である原告が、その土地上に登記した別紙第二目録記載建物を所有しているのであるから、原告は、建物保護法第一条により右土地について地上権の登記がなくても、右土地を取得した原告に対抗できるものである。

二、右理由なしとするも、訴外木村留三郎は、物納物件であつた別紙第一目録記載各土地および第二目録記載建物を大蔵省より売払を受けて、その各所有権を取得したものである。これは競売に代る方法である。原告は訴外木村留三郎のために右代金を支払い、登記簿上別紙第二目録記載建物が原告に、別紙第一目録記載各土地が訴外木村留三郎に帰属したのである。右は恰も競売によつて土地は右訴外人に地上建物は原告に競落されたと同様にして、原告が民法第三八八条により法定地上権を取得したものということができる。そして原告が建物保護法第一条により右地上権を被告美浪有限会社に対抗できること前記のとおりである。

三、右理由なしとするも、被告美浪有限会社は、別紙第一目録記載各土地上に、原告所有の別紙第二目録記載建物が存在することを知り、原告を害することを知つて、右各土地の所有権を取得したものであるから、正当な利害関係を有する第三者でなく、原告に対し、右建物を収去して右各土地の明渡を求めることは権利の乱用として許されない。

四、よつて被告美浪有限会社の反訴請求は理由がない。

(昭和三八年(ワ)第七一九号事件および昭和三九年(ワ)第四七七号事件について、被告美浪有限会社の答弁、並びに抗弁)

一、別紙第二目録記載建物の敷地が別紙第一目録記載各土地であること、訴外木村留三郎が原告主張の頃大蔵省より別紙第一および第二目録記載各土地建物の売払を受けてその各所有権を取得したこと原告が訴外亡木村留三郎より昭和二七年一月二六日右土地建物の内別紙第一目録記載各土地上の別紙第二目録記載建物を買受けて現在右建物に居住し、右各土地を占有していること、別紙第一目録記載各土地について原告主張のとおり各登記がなされていることはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

二、別紙第一目録記載各土地はその所有者であつた訴外木村留三郎より、被告中西英子および被告桑名輝子の両名に相続され、被告浅田克己が被告中西英子、同桑名輝子の両名より右各土地を適法に買受けてその所有権を取得したものであるところ、被告浅田克己は訴外中西浅右衛門に対し、反物類の買受代金五〇〇、〇〇〇円の債務を負担していたので、その債務の弁済に代えて右各土地の所有権を譲渡し、中間登記省略を承諾して、所有権移転登記手続に必要な書類を右訴外人に交付した。

被告美浪有限会社は昭和三四年六月九日右訴外人より右両土地を代金四六五、〇〇〇円で買受け、右各土地について中間登記を省略して、昭和三四年六月一〇日京都地方法務局受付第一八、二六一号をもつて同年同月九日の売買を原因として、被告浅田克己より直接、取得者を被告美浪有限会社とする所有権移転登記を受けたものである。

三、原告が訴外亡木村留三郎から別紙第一目録記載各土地を買受けたとしても、その旨の登記がないから、その所有権をもつて被告美浪有限会社に対抗することはできない。

四、よつて原告の被告美浪有限会社に対する本訴請求はいずれも失当である。

(昭和三九年(ワ)第四九五号反訴事件について、被告美浪有限会社の請求原因)

一、被告美浪有限会社は、前記昭和三八年(ワ)第七一九号事件および昭和三九年(ワ)第四七七号事件の答弁並びに抗弁、第二項記載の如き経緯によつて、別紙第一目録記載各土地の所有権を取得し、これが所有権移転登記を得たものである。

二、原告は何らの権原なくして右各土地上に別紙第二目録記載建物を所有し、右各土地を不法に占有使用している。

三、別紙第一目録記載各土地に対する適正賃料額は昭和三四年六月一〇日以降一月金五、〇〇〇円である。

四、よつて被告美浪有限会社は原告に対し別紙第二目録記載建物を収去して、別紙第一目録記載各土地の明渡を求め、かつ、被告美浪有限会社が別紙第一目録記載各土地についてその所有権移転登記を受けた昭和三四年六月一〇日より右各土地明渡ずみに至るまで一月金五、〇〇〇円の割合による賃料相当損害金の支払を求めるため反訴請求におよぶ。

(右事件について、原告の抗弁に対する被告美浪有限会社の主張)

一、原告主張の各抗弁を否認する。

第三、証拠(省略)

理由

一、被告中西英子および被告桑名輝子は公示送達によらない呼出を受けながら、口頭弁論期日に出頭しないので民事訴訟法第一四〇条により原告の主張事実(事実らん記載昭和三八年(ワ)第七一九号事件および昭和三九年(ワ)第四七七号事件についての原告の請求原因一ないし三)を自白したものとみなされ、右事実によれば、訴外木村留三郎は昭和二七年一月二六日原告に対し別紙第一目録記載各土地を売渡して、その登記をしないまま昭和二七年三月二二日に死亡し、右被告両名が、右訴外人の相続人として、同訴外人の有していた権利義務を承継したものにして、その相続分は被告中西英子が三分の一、被告桑名輝子が三分の二であるから、右被告らは同訴外人が原告に対して売渡した各土地について、原告をして、その所有権の取得を完全ならしめるために、被告中西英子は、その持分三分の一について、被告桑名輝子は、その持分三分の二について、原告に対し各その所有権移転登記をなすべき義務を負担するものといわなければならないから、原告の右被告両名に対する本訴請求は理由がある。

二、被告浅田克己も右と同様に民事訴訟法第一四〇条により原告の主張事実(事実らん記載昭和三八年(ワ)第七一九号事件および昭和三九年(ワ)第四七七号事件についての原告の請求原因一ないし四)を自白したものとみなされ、右事実によれば、原告は昭和二七年一月二六日訴外木村留三郎より別紙第一目録記載各土地を買受けて、その所有権を有するに至つたものであるのに、右各土地については、取得者を被告浅田克己とする原告主張の所有権移転登記が存在するものである。元来物権は登記がなくても排他性を有し、登記なき間は、第三者においてその効果を否認する権利を有するに過ぎないものと考えられ、即ち登記の欠缺は、それにより保護を受けようとする第三者において主張するを要するものと解すべきであるのに、被告浅田克己は、本件において、原告にその登記のないことを主張しないのであるから、原告は、実質上の所有権者として、その物権の効力に基づき登記簿上の権利者である同被告に対し、同被告の前記所有権移転登記の抹消登記手続を請求する権利を有するものということができ、原告の同被告に対する本訴請求も相当である。

(尚原告の被告らに対する本件訴訟は、通常の共同訴訟であつて、その訴訟の目的が被告ら全員について合一にのみ確定する必要のある場合に該当するものとは認められず、民事訴訟では弁論主義が原則にして、通常の共同訴訟においては、相対立する当事者の間だけで個別的、相対的に、その紛争が解決されるものであるから、相被告である美浪有限会社の主張は、利益、不利益に拘らず、被告中西英子、同桑名輝子、同浅田克己に影響なく、また、被告美浪有限会社の主張にかかわらず、裁判所は被告中西英子、同桑名輝子、同浅田克己の自白に拘束されるものといわなければならない。)

三、次に、原告の被告美浪有限会社に対する本訴各請求について検討する。

(1)  別紙第二目録記載建物の敷地が、別紙第一目録記載の各土地であること、訴外木村留三郎が原告主張の頃大蔵省より別紙第一および第二目録記載各土地建物の売払を受けて、その各所有権を取得したこと、原告が昭和二七年一月二六日訴外木村留三郎より、右土地建物の内別紙第一目録記載各土地上の別紙第二目録記載建物を買受けて現在右建物に居住し、右各土地を占有していること、別紙第一目録記載各土地について原告主張の如く、取得者を訴外木村留三郎とする所有権移転登記、被告中西英子、同桑名輝子とする所有権移転登記、被告浅田克己とする所有権移転登記、被告美浪有限会社とする所有権移転登記がそれぞれなされていることは、いずれも原告と被告美浪有限会社との間において争のないところである。

(2)  そこで原告は別紙第一目録記載各土地を訴外木村留三郎より買受けた旨主張するので案ずるに、右争のない事実に成立に争のない甲第四号証、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は昭和二七年一月二六日頃訴外木村留三郎の代理人南野幾太郎より別紙第一および第二目録記載各土地建物を合わせて代金三五万円で買受けたことが認められ、原告本人尋問の結果によつて成立の真正が認められる甲第五号証(売渡証書)には、昭和二七年二月六日附をもつて売渡した旨の記載があり、同証書の日附が昭和二七年二月六日と記載されているが原告本人尋問の結果によれば、右甲第五号証のこれらの記載は、原告が訴外木村留三郎より別紙第一および第二目録記載各土地建物の引渡を受ける日を記載したものであることが認められ、その他に、前記認定に反する証拠はない。

(3)  被告美浪有限会社は、原告が訴外木村留三郎より別紙第一目録記載各土地について所有権移転登記を受けていないから、原告の所有権取得は同被告に対抗することができない旨抗争し、右各土地について原告に登記のないことは原告の自認するところである。

(4)  そこで被告美浪有限会社は、原告の右登記の欠缺を主張することができる正当な利益を有する第三者であるか否かについて案ずるに、訴外木村留三郎の相続人である被告中西英子と被告桑名輝子とが被告浅田克己に対し別紙第一目録記載各土地を売渡したことは、原告と被告美浪有限会社との間において争のないところにして、右両土地について原告主張の如き取得者を被告浅田克己および被告美浪有限会社とする各所有権移転登記のなされていることは前記のとおり原告と被告美浪有限会社との間において、争のないところである。右争のない各事実は、成立に争のない甲第一、二号証および証人志治茂の証言を総合すれば、被告浅田克己は昭和三三年一二月一七日訴外木村留三郎の相続人である被告中西英子および被告輝子より別紙第一目録記載各土地を買受けてその所有権を取得し、同年一二月二七日これが所有権移転登記を受けたものであるが、昭和三四年六月頃訴外中西浅右衛門に対し、同訴外人に負担していた反物代金五〇〇、〇〇〇円の支払に代えて、右両土地の所有権を譲渡し、被告美浪有限会社は昭和三四年六月九日右訴外人より右両土地を代金五〇万円で買受け、同年六月一〇日中間登記を省略して被告浅田克己より直接所有権移転登記を受けたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

全証拠調の結果によつても、被告浅田克己が、原告において別紙第一目録記載各土地を既に訴外木村留三郎より買受けてその所有権を取得していたものであることを知りながら、訴外木村留三郎の相続人である被告中西英子および被告桑名輝子より右各土地を買受けたことを肯認するに足らず、従つて被告中西英子および被告桑名輝子と被告浅田克己との間の別紙第一目録記載各土地に対する売買が公序良俗に反して無効のものであるということはできず、次に被告美浪有限会社が別紙第一目録記載各土地について被告浅田克己において適法な所有権を取得していなかつたことを知つて、右各土地の所有権を譲受けたことを認めるに足る証拠もない。前記甲第一および第二号証によれば、別紙第一目録記載各土地には、原告を債権者とする京都地方法務局昭和三四年六月四日受付の仮差押の登記がなされていることが認められ、被告美浪有限会社が右両土地を買つたのは前記のとおり昭和三四年六月九日であり、また右各土地について取得者を同被告とする所有権移転登記が受付けられたのは同年同月一〇日であるから、同被告は右仮差押の存在を知つて右各土地を買受けたことが推測できる。然しながら右仮差押の存在することは、原告が被告浅田克己に対して金銭債権を有しており、原告もまた被告浅田克己が右両土地に対し所有権を有していることを認めていることの証拠とはなつても、被告浅田克己が右両土地に所有権を有していないことを窺うに足りるものではないから被告美浪有限会社において、右仮差押の存在を知つて右両土地を譲受けたとしても、その事実により、被告浅田克己が右両土地について所有権を有していないことを知つていたものということはできない。

よつて被告美浪有限会社は、別紙第一目録記載各土地について、原告に登記のないことを主張することができる正当な利益を有する第三者であるということができる。

(5)  そこで結局、別紙第一目録記載各土地はその所有者であつた訴外木村留三郎より原告に譲渡され、その登記のないうちに右訴外人の相続人である被告中西英子および被告桑名輝子より被告浅田克己に二重に譲渡され、その所有権移転登記は被告浅田克己になされたものであるから、原告の右両土地に対する所有権は消滅し右被告は、右両土地について完全な所有権を取得し、ついで右被告より譲受けた被告美浪有限会社も右両土地について完全な所有権を取得したものといわなければならない。

(6)  そうすると原告は訴外木村留三郎より別紙第一目録記載各土地を承継取得したことを理由としては被告美浪有限会社に対して右各土地所有権を主張することはできず、右を理由とする原告の同被告に対する所有権移転登記抹消登記手続を求める本訴請求は失当である。

(7)  そこで次に原告は別紙第一目録記載各土地の所有権を時効によつて取得した旨主張するので、この点について判断するに、別紙第二目録記載建物の敷地が別紙第一目録記載各土地であること、原告が昭和二七年一月二六日訴外木村留三郎より別紙第二目録記載建物を買受けたこと、および原告が現在右建物に居住して右各土地を占有していることは原告と被告美浪有限会社との間においては争なく、原告が右同日訴外木村留三郎より別紙第一目録記載各土地も買受けたことは前記認定のとおりであり、各事実に、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は昭和二七年二月六日訴外木村留三郎の代理人南野幾太郎より別紙第二目録記載建物および別紙第一目録記載各土地の引渡を受けて平穏かつ公然にその占有を開始し同年二月七日右建物に移転して以来今日まで引続き右建物に居住して、その敷地である別紙第一目録記載各土地の占有を継続しその占有の始め善意にして原告がその所有権を取得したものと信ずるについて過失のなかつたことが認められ、右認定に反する証人野崎武一の供述は原告本人の供述に照してたやすく措信できず、その他に右認定に反する証拠はない。

右認定によれば中断事由の存在しない限り、原告は民法第一六二条第二項に基づいて昭和三七年二月六日の満了と同時に別紙第一目録記載各土地の所有権を取得したものということができる。

被告美浪有限会社が右各土地に対し、所有権移転登記を得たのが右時効完成前の昭和三四年六月一〇日であることは、原告と被告美浪有限会社との間において争のないところにして、右被告が右各土地について真実の権利を有していたことは前記認定のとおりであるが、右登記は法定の中断事由のどれにも該当しないし、かかる登記に、中断の効果を認めることは現行法の解釈上困難であり、その他に中断事由の存在することについては被告美浪有限会社において主張立証しないところである。

被告美浪有限会社が昭和三九年五月二六日原告を相手方として本件反訴を提起したことは当裁判所に顕著な事実であるから、同被告が別紙第一目録記載各土地に同被告名義の登記を得て後、原告が更に取得時効を完成する間、権利の上に眠つていたものということはできないけれども、元来、取得時効制度存在の根本的理由は、一定の占有状態が永続するときはこれによつて一種の社会秩序が形成され、これを覆えすことは社会の法律関係の安定を害することになるので、その永続した事実状態を、そのまま尊重し、これを権利関係と認めようとするところにあるものと解すべきであるから、原告において一〇年間所定の占有を継続した以上、原告は別紙第一目録記載各土地の所有権を取得したものといわなければならない。

そうすると、原告は昭和三七年二月六日の満了と同時に別紙第一目録記載各土地の所有権を時効によつて取得したものである。

そうして、取得時効の制度は、登記面がいかにあろうとも、それに関係なく、常に占有を基礎にして権利関係を認めようとするものであるから、原告は登記がなくとも、被告美浪有限会社に対し、所有権の時効取得を対抗し得るものと解すべきである。

(8)  被告美浪有限会社の別紙第一目録記載各土地に対する所有権は、右原告の時効取得により消滅したのであるが、同被告は右各土地について、所有権を主張していることは弁論の全趣旨に徴して明らかであるから、原告は右被告に対して、原告が右各土地について所有権を有することの確認を求める利益がある。

(9)  真正なる不動産の所有者は、所有権に基づいて、登記簿上の所有名義人に対し、所有権移転登記を請求することができるから、別紙第一目録記載各土地の所有権を時効によつて取得した原告がその時効取得を原因として右各土地について登記簿上の所有名義人である被告美浪有限会社に対し、その所有権移転登記手続を求める原告の本訴請求は相当である。

四、そこで被告美浪有限会社の反訴請求について検討する。

(1)  別紙第一目録記載各土地について同被告が、同被告主張の如く、昭和三四年六月一〇日所有権移転登記を得ていること、および右各土地上に、原告が別紙第二目録記載建物を所有して、右各土地を占有していることは原告と右被告との間において争のないところである。

(2) 原告が昭和二七年一月二六日頃訴外木村留三郎より別紙第一目録記載各土地を買受けて、その所有権を得たが、その登記を受けないうちに、被告浅田克己が昭和三三年一二月一七日右訴外人の相続人である被告中西英子および被告桑名輝子より右各土地を買受けて、その所有権を取得し、同年一二月二七日これが所有権移転登記を受けたことによつて右両土地に対する所有権者は被告浅田克己のみとなり、原告の右両土地に対する所有権は消滅し、次いで右両土地の所有権は訴外中西浅右衛門を経て昭和三四年六月九日被告美浪有限会社に譲渡され同日同被告がその所有権を取得したのであるが、原告が昭和三七年二月六日の満了と同時に、時効により右各土地の所有権を取得し、これにより、右被告は右各土地に対する所有権を喪失し、原告は登記がなくても、その所有権の取得を同被告に対抗できること前記のとおりである。

(3) そうすると被告美浪有限会社の原告に対する別紙第二目録記載建物を収去して別紙第一目録記載各土地の明渡を求める同被告の反訴請求は、同被告が右各土地について所有権を有することを前提とするものであるから、原告の抗弁について判断するまでもなく失当である。

(4) また、同被告が原告に対し昭和三四年六月一〇日以降賃料相当損害金の支払を求める請求は、時効の効力は、その起算日に遡るので、原告は昭和二七年二月六日以降別紙目録記載各土地について所有権を取得したことになり、従つて被告美浪有限会社は、これに所有権を有したことはないことになるので、原告が昭和三四年六月一〇日以降、右各土地を占有することによつて同被告に対し損害を加えるに由ないものであるから、同被告のその余の主張について判断するまでもなく、同被告の右請求も失当である。

五、よつて原告の被告らに対する本訴請求はすべて認容(被告美浪有限会社に対する登記手続請求は、予備的の方を認容)し、被告美浪有限会社の反訴請求は、いずれも棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

第一目録

京都市中京区油小路通竹屋町上る大文字町六二番地の六

一、宅地   三八坪六合七勺

京都市中京区竹屋町通油小路西入西竹屋町五〇三番地の二

一、宅地   一四坪一勺

第二目録

京都市中京区竹屋町通油小路西入西竹屋町五〇一番地、五〇三番地上

家屋番号同町九番の二

一、木造瓦葺二階建店舗

建坪     一七坪二合

外二階坪   一四坪六合

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